ゴルフ小説「最後のパット」~エピソードⅡ:いざ、アメリカへ

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ゴルフ小説「最後のパット」エピソードⅡ:いざ、アメリカへ、では、全米オープン選手権出場権をつかみ取った伊達光司とキャディの緒方芯が、渡米前の特訓を繰り広げる。

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エピソードⅡ:いざ、アメリカへ

日本での特訓から、渡米、現地での出来事など、目まぐるしく変わる日々の末、いよいよ、全米オープンゴルフ選手権開催初日の朝を迎える。

伊達と緒方、絆深める特訓の日々

緒方は元ツアープロで、その経験を活かして伊達の専属キャディになることを志願した。かつて伊達が「奇跡を呼ぶワンパット」の瞬間、緒方は現場で、その輝きを目撃していたのだ。その瞬間、彼は伊達の可能性を信じ、伊達を全米へと導くことを決意した。また、緒方には、アメリカのゴルフ留学経験があり、英語も堪能だった。

緒方は伊達のスイングの微調整に着手する。「伊達さん、バックスイングは少し小さめにして、ダウンスイングでは右腕をもっと使うようにできますか? ボールを叩くときは、横から思いっ切りビンタを打つような感じで」と緒方は指導した。緒方が目指したのは、ダウンブロー気味の伊達のスイングを少しだけレベルブローに近づけることだった。

伊達は、緒方の意図が何であるかを瞬時に理解し、素直に受け入れた。

「力ではなく、スピードとテンポに意識を移してください。それによって入射角が一定になり、方向性の精度が上がります。そうすれば、低いボールも打ちやすくなりますし」。緒方は、全米オープンの会場であるペブルビーチのリンクス対策が念頭にあった。

「わかった。ペブルビーチでは、風を味方につけなくちゃな」。伊達は独り言のようにポツリと呟いた。

伊達は緒方の言葉を一つ一つ心に刻み、ドライビングレンジで振りのスピードとテンポ、そしてコンパクトなバックスイングを微調整しながら、日の出から日没までひたすら反復練習を繰り返した。額からは汗が滴り落ち、ときどき、うんうんと、うなずきながら確認の表情を浮かべる伊達の姿があった。

打ち込み後は、レンジに併設されているジムに行き、入念なストレッチと筋トレを1時間半こなすのが、伊達の一日のルーティンとなった。

マインドセットというもう一つの武器

緒方は伊達に技術だけではなく、マインドセットの重要性も語った。「伊達さん、スキルは大事ですが、それ以上に大事なのがマインドセットです。状況がどうあれ、自分が勝つと信じること。自分を信じ続けることで、困難な状況でも最善のプレーができます。わかってるかも知れませんが、忘れないでくださいね」

伊達は自身の信条ともつながる、このアドバイスに対しても、すっと腹に落ちた。

身体と心の特訓は、約2ヶ月間に及んだ。こうした緒方の指摘は、全米オープンでの戦いに大いに役立つこととなる。しかし、その時はまだ、彼ら自身もその先に何が待ち受けているかを知る由もなかった。

新天地モントレーの試練

伊達光司と緒方芯は、いよいよ日本を後にし、渡米することで次のステージへ移る。

渡米のための航空券を握りしめ、緊張感に包まれた伊達と緒方の顔には決意が宿っていた。現地で万全を尽くす覚悟で、大会の1ヶ月前に出発した。

フライトは約10時間。彼らの目的地はカリフォルニア州サンフランシスコ。伊達は飛行機の中でも、自身のスイングフォームをモバイルパッドを見ながら、何度も緒方に確認を求めた。緒方は、微笑みながら「全米オープンでのプレーをイメージしてるんですね」と、ボソリと言った。

サンフランシスコ国際空港に降り立った彼らは、レンタカーを借り、約150キロ南に位置する小さな町モントレーへと向かった。途中、腹ごしらえのため沿道のダイナーへ立ち寄ったが、伊達にとっては初めてのアメリカンなメニュー。とりわけ和食好きな伊達は、ベーコンとパンケーキの組み合わせに戸惑った。

モントレーに到着した伊達と緒方は、期待と緊張に包まれながら、その土地に足を踏み入れた。しかし、待ち受けていた試練は彼らを想像以上に試した。モーテル「ローズガーデン」に到着した直後、伊達のキャディバッグが盗まれるという状況に直面した。これはまさに青天の霹靂。

彼らはモーテルのオーナーを通じて、現地警察に被害を報告し、周囲に情報を求めたが、バッグはついに出てこなかった。

異国の友人たち

そんな彼らに同情したモーテルのオーナーであるフランク・ティルマンが彼らを助けてくれた。実はフランクは親日派で、全米オープンに出場すると聞いた瞬間から、二人を心から気遣い、友人であるゴルフショップの店主、ビル・タナカに連絡を取ってくれた。

日系3世のビルは、自身の店から伊達が持っていた同タイプのクラブを無償で提供しながら、こう言った。”Make sure to win ! =必ず、優勝してくれ”。こうして、アメリカで心強い味方が生まれ、彼らの新たな挑戦を支えた。

一方、生活面で一番大切な食生活は容易でなかった。しかし、そんな時、彼らは在住の日本人シェフ、マリー・サトウが経営する日本食レストラン「さくら」をビルから紹介され、日本の味を楽しむことができた。

次第に伊達と緒方はモントレーでの生活にも慣れていき、地元の人々とも交流を深めていった。とくにフランクとビルとは、盗難事件以降、親交を深め、彼が経営するバー「ティルマンズ」で時折、軽食や話し合いの時間を共有するようになった。

ビルの援助で、そばにあるコース練習にも事欠かなくなり、充実した準備日程をこなしていった。

黄金色の海岸線の先へ

そして、ついに全米オープン初日の朝を迎え、伊達と緒方は車でモーテルを出発した。開催地であるペブルビーチゴルフリンクスへ、緒方はモチベーションをあげるため、あえて海岸道を走り向かった。

早朝のモントレーの道路は静寂に包まれていた。二人が乗る車は海岸沿いを走り続ける。その途中、窓の外に広がるパシフィック・オーシャンの壮大な景色が、視界に飛び込んできた。ソフトな朝日が海面を黄金色に照らし出し、その輝きが眩しい。

「すごいな、この景色…」と緒方がつぶやくと、助手席で伊達は深く頷いた。そして、緒方は再び道路に目を戻し、ステアリングを握り締めた。

Pebble Beach Golf Links Pebble Beach CA

海岸線を走るうちに、ペブルビーチゴルフリンクスの看板が見えてきた。二人は静かに息を呑み、車をその看板の方へと進めた。伊達の心の中で何かが動き、彼の視線は前方に固定された。

「よし、行くぞ、緒方。」伊達が静かにつぶやくと、緒方は「はい、行きましょう、伊達さん。」と応えた。

そして、彼らはペブルビーチゴルフリンクスのゲートをくぐり、全米オープンの会場へと足を踏み入れた。

アメリカで初めて打つティーショットまで、あと少し。それは、遠い日本からの長い旅路の終わり、そして新たな戦いの始まりだった。

エピソードⅢに続く 》

ゴルフエッセイ
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