アメリカにはPGAツアーを筆頭に大きく3つのツアーがあり、直下には「コーンフェリーツアー ‘KORN FERRY TOUR’」、その下部に「スイングソートツアー ‘Swing Thought Tour’」があります。
サッカーJリーグやMLBもしくはプロ野球で例えれば、PGAツアーが「J1 or メジャー(一軍)」、コーンフェリーツアーが「J2 or AAA(二軍)」、スイングソートツアーが「J3 or AA(三軍)」といったところでしょうか。MLBと日本プロ野球は基本的な機構が違うので同一視できませんが、ざっくり説明ということでご容赦ください。
PGAツアーは 説明するまでもなく、世界最高峰の舞台。その下部ツアーであるコーンフェリーツアーやスイングソートツアーなどについて解説します。
コーンフェリーツアー | KORN FERRY TOUR
コーンフェリーツアーの目的は PGAツアーに出場できないプロゴルファーにも大会出場と賞金獲得のチャンスを与え、ツアー賞金ランキング25位以内に入ればPGAツアーシード権が得られることです。PGAツアーが運営しています。
ツアー名称の変遷
ツアーの歴史は 1990年に「ベン・ホーガンツアー」としてはじまり、その後スポンサーの変遷によってツアー名も次のように変わっていきました。
①1990 – 1992年 ベン・ホーガンツアー
②1993 – 1999年 ナイキツアー
③2000 – 2002年 Buy.comツアー
④2003 – 2012年 ネイションワイドツアー
⑤2012 – 2019年 Web.comツアーときて
6代目が2019年~コーンフェリーツアー。
コーンフェリー社とは10年の契約を結んでるので2029年までは同じ名称でツアーが続きます。
Qスクールの入り口
2013年からは それまでPGAツアーで行っていたQスクールをWeb.comツアー(当時名称)が担うようになり、PGAツアー出場権を得るためには コーンフェリーツアーで一定の成績を残すことが必要となりました。
それ以前は Qスクールを通過すれば直接PGAツアーに出場できた事を考えると、より一層の安定した実力と実績を残すために下部ツアーで戦わなければならなくなったということです。
賞金総額は 日本男子ツアー以上
下部組織とはいえ賞金額はけして低くなく、2018年度でみてみるとコーンフェリーツアーの年間賞金王で2億円(200万ドル)を超えており、10位の選手でも1億5千万円(140万ドル)ですから、日本の男子ツアー以上という見方もできます。
2020 – 2021年シーズン、コーンフェリーツアー ポイント獲得TOP5の選手たちです。(左から上位順、2020年12月19日現在)
コーンフェリーツアーからPGAツアーで活躍した選手たち
コーンフェリーツアーからPGAツアーカードを手にするだけでなく活躍した選手は たくさんいます。
トム・レーマン | Tom Lehman(米国)
トム・レーマンは 1991年のベン・ホーガンツアー(当時名称)で4勝をあげ、賞金王と年間最優秀選手(プレーヤー・オブ・ザ・イヤー)を受賞。
PGAツアー後は 1996年の全英オープンでメジャーを初制覇。同年最終大会となるザ・ツアーチャンピオンシップも制しこの年のPGA年間最優秀選手、PGAツアー年間最優秀選手、バードン・トローフィー、年間賞金王、バイロン・ネルソン・アワードの6冠を達成。
PGAツアー通算5勝、ヨーロピアンツアー2勝、日本ツアー1勝、PGAツアー・チャンピオンズ12勝、ヨーロピアンシニアツアー2勝と世界を渡り歩いて大活躍しています。
スチュワート・シンク | Stewart Cink(米国)
スチュワート・シンクは 1996年のナイキツアー(当時名称)で3勝、賞金王と年間最優秀選手に選ばれ、PGAツアーでは 2009年の全英オープンを制し、PGAツアー通算7勝、欧州ツアー2勝をあげてます。
チャド・キャンベル | Chad Campbell(米国)
チャド・キャンベルは 2001年のBuy.comツアー(当時名称)で3勝し、賞金王と年間最優秀選手を受賞。PGAツアー通算4勝。
ザック・ジョンソン | Zach Johnson(米国)
ザック・ジョンソンは 2003年のネイションワイドツアー(当時名称)で2勝し、賞金王と年間最優秀選手を受賞。PGAツアーは 通算11勝。うちメジャーで2勝(マスターズ 1勝、全米オープン選手権 1勝)。
優勝したマスターズのときジョンソンは 世界ランキング56位で出場。50位以下の選手がマスターズを制した史上初の選手となる珍事もありました。
ジミー・ウォーカー | Jimmy Walker(米国)
ジミー・ウォーカーは 2004年のネイションワイドツアー(当時名称)で3勝し、賞金王と年間最優秀選手を受賞。
2005年からPGAツアーに参戦しますが、8年かけて2013年「フライズドットコムオープン」で悲願の初優勝。ここから上り調子に入り2015年までに通算5勝をあげ、2016年ついに、全米プロゴルフ選手権で初メジャー制覇を果たします。PGAツアー 通算6勝。
カルロス・オルティス | Carlos Ortiz(メキシコ)
カルロス・オルティスはメキシコの選手。2013年にプロ転向後、Qスクールを15位で通過。2014年のWeb.comツアー(当時名称)4戦目の「パナマクラロチャンピオンシップ」で初優勝を遂げ通算3勝し、年間最優秀選手を受賞。
PGAツアーカードを手に入れ2015 – 2016年シーズンに挑みますが結果を残せず、2017 – 2018年は再び下部ツアーが主戦場となりますが、このシーズンに好成績を収め再びPGAツアーに返り咲きます。
迎えた2020年11月、「ビビントヒューストンオープン」でPGAツアー初優勝。ビクター・レガラド、セザール・サヌードに次ぐ22年ぶり3人目のメキシコ人PGAツアー優勝者となりました。
オルティスは この勝利で2021年マスターズ招待の資格をゲット。2019年、メキシコ人として2人目のマスターズ出場を果たした弟のアルバロ・オルティス(アマチュア)に次いで3人目のメキシコ人出場となりました。
イム・ソンジェ | Sung-Jae Im(韓国)成功への階段を駆け上がる
近年、コーンフェリーツアーを見事なまでにステップアップした選手、それが韓国のイム・ソンジェ(任成宰)。
彼こそは 日本ツアーからWeb.comツアー(当時名称)、そしてPGAツアーへ着実にステップアップした典型的な選手。PGAツアーに参戦してる韓国人選手なかで 今一番勢いに乗っているプレーヤーです。
2015年、17歳でプロ転向したイム・ソンジェ選手は すぐに翌年から日本ツアーに参戦(2016年 – 2017年 | 18歳 – 19歳)。
2016年は 賞金ランキングで59位(約1,800万円)で第一シードに入り翌年もフル参戦。2017年の最上位は「マイナビABCチャンピオンシップゴルフトーナメント」で2位タイ。この年の賞金ランキングで12位(約6,200万円)の結果を残し渡米します。
2017年12月のQスクールを2位通過し、2018年Web.comツアーのフル出場権を手に入れると1月初戦となる大会「バハマグレートエグズーマクラシック」で2位に4ストローク差をつけていきなり初優勝。19歳292日での優勝はツアー史上ジェイソン・デイに続く二番目に若い記録となりました。
同年 2勝目を「ウィンコフーズ・ポートランドオープン」であげ、他の大会でも3度の2位フィニッシュ。結局、2018年の賞金王と年間最優秀選手をダブル受賞し、堂々たる成績で翌年のPGAツアーメンバー資格を獲得しました。
イム・ソンジェの勢いはそのまま続き、2019年「ホンダクラシック」PGAツアーで初優勝し、年間7度のトップ10入りでこのシーズンのルーキー・オブ・ザ・イヤーに輝きます。コーンフェリーツアー最高賞に続くこの栄冠は 1996 – 1997年のスチュワート・シンクに次ぐ快挙でした。
COVID-19の影響で順延となった2020年11月に無観客試合として行われたマスターズ・トーナメントでは 2位タイでフィニッシュ。着実に実力を上げてきています。
スイングソートツアー | Swing Thought Tour
スイングソートツアーはコーンフェリーツアーより2年早く1988年に設立された大きさでは3番目になりますが、コーンフェリーツアーと比較して賞金規模は1/10以下です。こちらのツアーもスポンサーの変遷と同時に名称が変化してきました。
①NGAプロゴルフツアー、②NGAフーターズツアー、そして現在のスイングソートツアーとなりました。賞金額はコーンフェリーツアーより低く、過去15年の間の賞金王を振り返ってみると、年間最も稼いだ選手は2009年のテッド・ポッタージュニアで2,000万円(約20万ドル)超え。
10番目に稼いだ選手で2005年のデイブ・シュライヤーで1,000万円(8万6千ドル)弱。賞金王を獲ってもプロゴルファーとして生活していくギリギリのラインです。
スイングソートツアーの優勝賞金は 低い大会で 7,500ドル(約80万円)、高い大会では 35,000ドル(380万円)出ます。約5倍弱もの差がありますが、優勝賞金額の高い大会で勝てるわけでもないところがゴルフの難しいところですね。
世界中にいるプロゴルファーのなかで、ツアー賞金だけで生活できてるプレーヤーは ほんの一握りしかおらず、その数わずか5%のみ。ほかの95%は クラブに所属してサポートを受けたり、レッスンプロなどで生計を立てています。言うまでもなく世界で最も収入のある選手が タイガー・ウッズです。
世界の主要なツアーを賞金総額順で比較してみると、筆頭は PGAツアー。2番目がヨーロピアンツアーで、3番目がLPGAツアー。4番目がPGAツアー・チャンピオンズ(シニアツアー)、5番目がアジアンツアー、6番目でようやく日本ゴルフツアーが来て、最後が日本女子プロゴルフツアーとなります。
AONが一時代を築いた影響もあり1990年代は 日本ゴルフツアーの賞金総額が最も潤沢だった時代(世界第三位の規模)あり1990年には44もあった大会が、2007年には約半分の24に減少し、2019年になっても同数24のまま。日本女子ツアーが同年に36試合開催されたことを鑑みると近い将来、男女逆転してしまう可能性は否めない状況ですね。
そのほかのツアー | 3部ツアー
スイングソートツアーとほぼ同じ規模で運営してるのが ゲートウェイツアーでそれに次ぐのが APTツアーです。
ゲートウェイツアー | Gateway Tour(PGA)
2005年にゴールデンベアツアーとしてはじまったゲートウェイツアーはPGA(全米プロゴルフ協会※)が直轄しています。このツアーで活躍できるとコーンフェリーツアーへの道が開かれ、さらにジャンプUPしてPGAツアーへの道も夢ではありません。
実際、ゲートウェイツアーでPGAツアーカードを手に入れPGAツアー通算 4勝をあげたショーン・オヘアや、PGAツアー通算 5勝のJ.B.ホームズ、PGAツアー通算12勝(うちマスターズで1勝)のバッバ・ワトソンなどがいます。
(※)PGAと、PGAツアーは別団体。1968年、ツアー運営のためにPGAから独立したのがPGAツアーです。
APTツアー | All Pro Tour
1994年から米国中南部地域(テキサス、ルイジアナ、オクラホマ、アーカンソー、ミズーリ、カンザス)にて地元の非営利団体と提携してはじまったAPTツアー。毎年数千ドル規模ながらチャリティイベントなども開催。PGAツアーを目指すプロゴルファーのスキルを磨くための機会を提供しています。
実際、APTツアーを通してPGAツアーへ羽ばたいた選手には バッバ・ワトソンやマーク・ヘンズビー、J.L.ルイス、ティム・ヘロン、キャメロン・ベックマン、ライアン・パーマーたちがいます。
コーンフェリーツアーへの登竜門としても機能しており、クラマー・ヒコック、スコット・スターリング、ロン・ウィッタカー、ショーン・ステファニー、エドワード・ロー、J.J.キリーンらは コーンフェリーツアーでの優勝経験があります。
✑ 編集後記
私のようなヘボゴルファーにとって、プロゴルファーと聞くとなんだかかっこいいなぁ、と感じてしまうのが正直なところ。しかし、彼らが肝心のゴルフで食べていける人は本当に少なく、しかも完全無欠な自営業。
プロゴルファーとは 100%自分のことは自分で守るしかない実にシビアな職業なんだとあらためて痛感します。
ゴルフ観戦を楽しんでるだけの自分にできることは とにかく大会に出場してる選手たちをひたすら応援する事なんだと心に誓ってしまいます。とくにチャレンジツアーやステップアップツアーの選手たちを。
今年は一人も例外なく、COVID-19のせいでとんでもない一年になってしまいました。このひどい状況は 残念ながらまだ暫く続くと予想されるので、兎にも角にも健康第一で日々、気をつけながら元気に過ごしてまいりましょう。